過激さのあまりYoshi自身が封印していた衝撃の問題作に衝撃を受けてみる

 
どうも“めいる”“Yoshi”でグーグルから飛んでくる人が増えていると思ったら、Yoshiの新刊『もっと、生きたい…』って、『めいる』のことなのね。『めいる』はYoshiの公式サイトにアップされていたいわゆる携帯ホラー小説で、いまはリンクが切れている。僕は約1年前に読んで、日記に感想を書いたんだっけ。

【うろ覚えのあらすじ】
体の一部が切り取られるという連続猟奇殺人事件が発生。主人公は、被害者の元に自分のメールアドレスでメールが届いていることを知る。そして、メールの中身には切り取られた体の部位が記されていた。
主人公は警察に犯人と疑われるが、それに先んじて偽メールの謎に迫る。実は主人公は伝説のプログラマー(これはあとから知らされる)。どうもこの事件の動機は自分がかつて結婚を約束していたが、式の前日に自殺をした恋人の怨恨にあることに気づく。しかし、犯行を実行しているのはその恋人の父親。その父親は天才理工学者で、自己増殖する人工知能プログラムの開発に成功していた(これも後から知らされる)……。

覚えている限りだとこんな感じの展開。これは『めいる』のあらすじであって、『もっと、生きたい…』は改稿がなされている模様。だけど、現物を所持していたid:samurai_kung_fu師に見せてもらった限りでは大筋に変化は無いはず。
科学的なリアリティを押えたSFかと思いきや急に幽霊話の方向に振れたり、フィクション性の強いミステリなのかと思いきや、急にリアリティを持たせるプログラミングの話が出てきたりと、とにかく1本の小説の中であらゆるジャンルをクロスオーバーしていく。ミステリなのに超能力者が出てくるというようなタブーを持ち込む手法は京極夏彦などがすでにやっているけど、この小説はまた別もの。とにかくものすごい速さでジャンルを横断するスピード感覚は快感だった。元ネタ云々を掘り下げるのも野暮。針が振れるスピードこそこの小説の命。
また、作者(鬼才Yoshi)が伏線というものを知らないんだと思うけど、すべてがあとから語られる“後出しじゃんけん小説”でもある。馬鹿ミスとして爆笑しながら読むか、めくるめく脱構築マジックを楽しむかは読者次第。
えーと、帯文に「この物語の結末は人に教えないで欲しい。」って書いてありますが、結末はどうでもよかった気がします。愛がインストールされて世界が平和になるとか完全に意味不明な感じ。
なぜ『めいる』が『もっと、生きたい…』にタイトルが変わったのかは謎。表紙の空の写真&メンヘルなタイトルというのは安っぽいマーケティングによるものなのか? 出版社の戦略なのかもしれないけど、Yoshiっていう人物は終始一貫してマーケティングに興味を示している作家であることは間違いない。あと、「鬼才Yoshiが4年間の沈黙を破った! 過激さのあまりYoshi自身が封印していた衝撃の問題作」という三文宣伝文句はさすがにYoshi本人のものではないと思うけど、ミスリードを誘うこの手のやり方は鬼才Yoshiの才能を貶める以外のなにものでもないのになぁ。

「もっと、生きたい…」

「もっと、生きたい…」

【追記】鬼才とは細かいディテールは気にせずに、壮大なテーマを描く芸術家の総称だと思ってます。ちなみにYoshi氏の場合、過去の作品を見ても明らかですけがリアリティを埋めていく類の努力は一切しないので、いいかげんな箇所を探していく楽しみ方もあります。
例)伝説のプログラマの条件(ネタ元id:ryoko:20050101#p4)

普通のプログラマが一週間かかって組むものを、二日で完成させられる。しかも一切バグがない。それが伝説のプログラマーと呼ばれる所以。

この2行で伝説のプログラマを描写してしまうYoshiは鬼才以外の何者でもない(大絶賛)。