「マリオ」から垣間見るアメリカ文化 その1
以下は、日本が生んだスーパースター“マリオ”がいかにアメリカの影を背負っているかに関しての覚え書きのようなもの。江藤淳の占領研究の続編を意識してます(もちろん嘘)。企画書の一部を抜粋したようなものなので、完全につぎはぎです。ちょっと長くなるので、まずは「その1」。
■Wikipediaマリオ(ゲームキャラクター)
マリオがデビューしたのは1981年7月。アーケード版の『ドンキーコング』。ちなみにこの当時のマリオには名前すら与えられていない*1。
当時、設立されたばかりのニンテンドー・オブ・アメリカが売れ残った基盤の使い道に困り、一介のデザイナーを起用し云々という宮本茂の伝説はあまりに有名なので端折るけど、この任天堂の記念碑的一作『ドンキーコング』は、元々『ポパイ』というタイトルでゲーム化される予定の企画だった。つまり、ポパイがブルートにさらわれたオリーブを救うために、樽を飛び越えながら鉄骨を登って行くゲームだったのだ。
『ポパイ』は、セイラー服、水兵帽、錨の刺青、パイプといった出で立ちの、ほうれん草を食べることで強さを増す*2ヒーロー。やがてマッチョな男の代名詞としても広く用いられる*3。
ポパイは1929年にマンガの主人公として登場。1933年にはアニメ映画となり当時はミッキーマウスを超える人気の持ち主となった。『ポパイ』が登場した1929年はエンパイアステートビルが着工し、アメリカが繁栄の頂点にいる時期。ポパイは第一次大戦の戦勝国の象徴というよりは、缶詰でホウレンソウを食べる姿は機械工業化、資本主義経済的繁栄のシンボルだった(ただし、この年の秋には未曾有の大恐慌が襲う)。
日本でポパイのアニメが初めて放映されたのは相当後になって、1959年5月のこと。その当時、宮本茂少年は6歳だった。
元々『ポパイ』として企画されたこのゲームは、結局版権が下りずに急遽オリジナルキャラクターを用ることを強いられる。そこで物語の背景として借りたのが『キングコング』だった。悪役のブルートは「コング」に、ヒロインのオリーブは「レディ」に変えられた。そして主人公のポパイは没個性なキャラクター「Mr.ビデオゲーム」に差し替えられた。彼こそがマリオの原型である。
↑Mr.VIDEOGAME
映画『キングコング』が登場したのは1933年。『キングコング』は、怪獣映画、パニック映画のはしりとして知られるが、正確には当時の映画の主流だった、異境の地に出かけた探検隊が未開人や未知の動物に襲われるという“異境冒険ドキュメンタリー”の延長線上にある作品。物語の設定もドキュメンタリー作家を名乗る興行師が幻の島、髑髏島の原住民が信じる巨大神コングを撮影するために出向き本当にコングと遭遇するという“メタ異境冒険ドキュメンタリー”になっている。また、1926年にインドネシア・コモド島でコモドオオトカゲが発見されたという史実も物語のベースになっている。
もうひとつ大事なのは1931年に完成したばかりのエンパイア・ステートビルがクライマックスの舞台となっている点。都市を象徴するランドマークが怪獣映画には付き物という伝統はすでにこの時点で始まっている。おそらく怪獣映画の元祖といわれる所以は、このランドマークの登場にあった。
ビデオゲームの『ドンキーコング』の登場が1981年。その5年前の1976年、『キングコング』はジョン・ギラーミン監督でリメイクされており、コングは今度は世界貿易センタービルによじ登る。2001年9月11日に壊れてしまったあのビルだ。
レディを連れ去ったドンキーコングを追い、鉄筋のビルを登っていくという『ドンキーコング』の物語は、そのまま美女をさらいエンパイア・ステート・ビル(リメイク版だと貿易センタービル)よじ登った『キングコング』になぞられている。これを当然おもしろく思わなかったパラマウントは『ドンキーコング』を映画『キングコング』の類似として訴えたが、最高裁までもつれ込んだ結果任天堂側が勝訴する。
日本のポップカルチャーはマリオに限らず、すべてアメリカ文化の影を背負っている。ディズニーの『ライオンキング』が『ジャングル大帝』のパクリみたいな逆転もあるけど、手塚プロ側がそれを主張しないのも当然と言える。とくにテレビ、ラジオ放送が始まり、映画が娯楽になっていった1920年代〜1930年代はポップカルチャー萌芽の時代。20世紀後半の日本のデジタルなヒーローであるマリオも、この頃の文化に強い影響を受けている……。というわけで、その2は、ポップカルチャーが生まれ急速に育った50年代〜60年代のアメリカ文化からの影響と、マリオの造形などの関わりについて考えてみるつもりです。
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