ファミレス文学『鏖(みなごろし)』

無情の世界 (新潮文庫)
ファミレス研究のための新カテゴリー。
主に、ファミレスが舞台になったり、登場してくる文学、映画、マンガを見つけたらメモしていく予定です。ついでに、ファミレスの歴史なんかにも触れるかもしれません。
まずは、ファミレス文学の代表作、阿部和重の短編『鏖(みなごろし)』(『無情の世界』に収録)。

主人公はこの国の若者をダメにしたのがアメリカ文化であり、アメリカを目の敵にする若者オオタタツユキ。もちろん自分自身も大のアメリカかぶれで、アメリカの衣料・アクセサリーに金をつぎ込み借金をし、自分が買い物をしていた原宿系のショップの店員として働くようになった。
この短編の舞台がファミレスへと移るのは後半。人妻との待ち合わせのためにデニーズへ訪れたオオタタツユキは、そこでポータブルのTVモニターを眺めている男と出会う。彼は自分の家に仕掛けた隠しカメラの映像を見ており、そこには妻の浮気現場が映っている。オオタタツユキがいらだちから男を“妻の浮気を知っても何もできないくせに”と罵ると、男は逆上し、オオタツユキに“そのモニターを見てろよ”と釘を指し、妻と浮気相手を殺しに家へと向かう。そこにオオタタツユキの行方を探していた彼の勤めるショップの店長とその仲間がやってきて、横領を責め店の中で暴行を加え、TVモニターを破壊。そこに件の男が帰って自分が妻と間男を殺したシーンを見ていなかった事に怒り狂い、男たちに襲い掛かり……

というのがあらすじ。阿部和重的なキーワード満載の短編。まさにファミレスのために描かれたたキッチュなクライム・ストーリー。