阿部和重と攻殻SACを比較してみる

 いまさらながら『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』の4月放映分だけPPVで購入。毎回あらすじ紹介とネタ元探しを書いてたんだけど、今回はとくにネタ元が見当たらなかったので省略。
 阿部和重攻殻機動隊 S.A.C.の共通点について書いておこう。はてなユーザーなら、どちらともチェックしている人は少なくないのでは?
 まず、攻殻機動隊 S.A.C.の“笑い男事件”は日本の戦後事件史を幾度となくなぞらえている。社長誘拐事件は明らかに“グリコ森永事件”。で、丸山ワクチンミドリ十字などの厚生省からみの事件もモチーフとしてそのまま使用されている(『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Official Log2』に戦後事件史の詳しい解説が載っている)。
 これらは大掛かりにモチーフとして使われているのだが、完全に記号としてのみ登場するのが下山事件。物語終盤、薬島幹事長の過去を洗うシークエンスで、線路脇の礫死体の絵が出てくる(下山事件の暗示)。この事件のくだりはあらすじには影響しないが、薬島幹事長の背後の黒い霧を提示する記号としての役割を果たしていると思われる。
 この下山事件のイメージは『シンセミア』の中でも、広崎正俊が列車で死ぬ下りとして登場する。「現代つまり二〇〇〇年の状況と終戦直後の状況というのを重ね合わせ」たという阿部和重が語るように*1、記号として用いられている。
 もうひとつ攻殻機動隊 S.A.C.で“笑い男事件”と並行して走るのが“視覚素子不正使用疑惑事件”だ。視覚素子という人の目にカメラを仕込むということが行なわれていた。これは、『シンセミア』で神町中に張り巡らせた盗撮用ビデオカメラに合い通じるものがある。
 これらのシンクロは意図的なものなのか? 神山健治監督は村上春樹好きを公言していて、SACでもサリンジャーをネタに使っていたりしたので、これまで『シンセミア』にまでは意識がいかなかったのだけど・・・・脚本チームの中の誰か? それとも本当に“スタンド・アローン・コンプレックス”な事象なのか?
 そして2nd GIGの中心となるテロリスト集団“個別の11人”では、五・一五事件がモチーフになっている(これはSACと違い、明示されている)。となると、ずばり直球『インディヴィジュアル・プロジェクション』だ。この小説は、日記の日付や、登場人物の名前など、血盟団二・二六事件五・一五事件の記号が用いられている。ちょっと調べてみたらはてな内で、id:saCLAさんが、この小説の仕掛けについて書いているのでリンク→http://d.hatena.ne.jp/saCLA/20040113

 ちょっといい研究材料だなと思ったんですけど、とりあえず5月分のPPVをみなくちゃ。あと阿部和重の未読作品に当たってみます。もし、阿部和重攻殻SACについて触れた研究サイトをお知りの方がいたら教えてください。

*1:『文藝』特集阿部和重・ロングインタビュー[A面]聞き手・仲俣暁生id:solar