『私鉄探検』を読んだ

私鉄探検 (ソフトバンク新書)

私鉄探検 (ソフトバンク新書)

【近藤正高氏インタビュー】新時代を迎える私鉄はどう変わるのか
 
近藤正高さん(id:d-sakamata)を知ったのは、彼が作っていた『Re:Re:Re:』という同人誌がきっかけだった。僕が最初に読んだのは、新幹線について書かれたあらゆる言説を集めた特集号。新幹線を通して戦前から戦後の日本の社会像が見えるといった、かなり秀逸なもので、これはすごいと思って即連絡を付けて本人に会いに行った。
実際にあって話を聞いてみると、彼は別に鉄道マニアではないという。それは本の中でも言っている。

ところで、あらかじめことわっておくと、僕は鉄道に関心こそあれ、ディープな鉄道ファンではけっしてない。実際、僕が鉄道の本を書くと友人に話したところ、意外だという反応が多かった。

これは確かに『Re:Re:Re:』の他の号を見るとわかる。彼の興味の対象は近現代史であって、鉄道はその一環。さらに、上のインタビューでも鉄道ファンではないことに触れる。

日本の近代史と鉄道のかかわりについて興味をもって、それこそ戦後の新幹線のルーツだといわれる戦前の弾丸列車計画とかあのあたりの本はかなり集めましたね。

それが、僕の読んだ『Re:Re:Re:』の新幹線特集だったわけだ。
近藤は原武史の『「民都」大阪対「帝都」東京 (講談社選書メチエ)』の名を挙げているが、当然、小林一三に倣って沿線ビジネスを展開した東急の成り立ちについて書かれた猪瀬直樹の『ミカドの肖像(小学館文庫)』や堤康次郎旧宮家の土地を買い集めていく西武グループの成り立ちについて書かれた『土地の神話―東急王国の誕生 (小学館ライブラリー)』などにもはまったはず。
本人は鉄ではないと言うが、無理に鉄オタの分類で言うと「読み鉄」になるんだと思う。
 
彼の初単著本となった『私鉄探検』は、西武、京王、京急つくばエクスプレス名鉄近鉄、阪急・阪神という各私鉄の企業文化や沿線文化を語るという作りの本だ。鉄道から近現代史を語るといった堅苦しいものではなく、もっと気軽に読める観光ガイドとしても成立している。
しかし、当然、近藤の本質の部分、鉄道がどのように現代の社会形成に関わってきたか、という視点も多々入り交じっている。
 
例えば、阪急・小林一三がかつて、起点に百貨店、終点に娯楽施設(宝塚劇場)を作り、その中間で宅地造成を行なうという沿線ビジネスを作り上げたが、近藤はつくばエクスプレスとはその沿線モデルの最新発展系であると見立てる。そして、現在の秋葉原がどういう街であるのかや、秋葉原駅と大阪・梅田駅の構造の類似などを指摘している。
 
さらに、終章は大東急・五島慶太が思い描いた相互乗り入れという思想が、現代のPASMOSuicaによって現実化しているシームレス化として、結実していると指摘する辺りが大団円か。
これは、戦前の弾丸列車構想が新幹線として実を結ぶという話がきっかけで鉄道に興味を持った近藤ならではの視点だと思う。
 
やっぱり期待通りのおもしろい本だった。