ニューミュージックという言葉は誰が考えたのか

音楽の新しいジャンルが生まれ、その名前が決められていく経緯に興味があります。
例えばJ-WAVEが自局でかける邦楽ポップスとAMなどでかかる歌謡曲と区別するためにJ-POPという言葉を作ったのがいい例だけど、既存のジャンルを貶める意思が新しいジャンルを生み出していく。
ロックというジャンルの否定から生まれた「PUNK」は、“定着”が死を意味するゆえに自らをどんどん否定し続け、初期パン、ポジパン、ハードコア、ポジコア、サイコビリー、オイパンク、オイキムチスカパンクスカコアメロコア、ゴシック……etc といった具合にジャンルを生み出し過ぎたりもした。
J-POPが排除した音楽には「ニューミュージック」も入ってると思うんだけど、「ニューミュージック」だってそもそもフォークとの差別化を図るために生まれた言葉なはず。いま手元に『歌謡曲完全攻略ガイド』という低IQなタイトルの割にはしっかりした日本の歌謡曲の研究本がある。この本でニューミュージックについて書かれている箇所を引用。

私に言わせればこれ(ニューミュージック)は、ショッカーが組織変更してゲル・ショッカーにかわったのに近い印象であり、「フォーク=青臭い」というイメージを払拭する商業装置であったようにも思われる。(書き手・井口亮)

ニューミュージックに限らず「J-POP」だってゲル・ショッカーだったし、もっと言えば「ロックンロール」だってゲル・ショッカーだったのだと思う。
それで「ニューミュージック」という言葉は誰が考えたのかをネットで探してたらこんなのがあった。
http://sound.jp/itoginji/undown1.htm
伊藤銀次のインタビューなんだけど、その中に答えがある。

かつてニューミュージックという音楽をソニーが考えて、フォークなんだけどその辺の音楽と違うよねと。そこでどうすればいいかと思ってたら、そこに非常に無責任な人が"新しいんだからニューミュージックでいいじゃないか"と言って付けちゃったんだけど(以下略)

どのアーティストの担当なのかはわからないけど、とにかくソニーらしい。ということは第一人者は松山千春でも中島みゆきでも荒井由実でもないということか。
ちなみに、上の伊藤銀次のインタビューはおもしろい。音楽にレッテルを貼ることは重要性とかは、普通アーティストが語ることの逆(プロデューサー視点?)で語ってる。あと、佐野元春の当時のレコーディングの話とかもすごくおもしろかった。

よく音楽をジャンル分けするのはナンセンスとか、分け隔てなく音楽を聞こうぜとかっていう音楽博愛主義的なことを言いがちですが、既存のものを貶めることで次の市場を作っていくわけなので僕は断然音楽差別振興派です。

あと、これまではレコード会社やラジオ局が新しいジャンルを定義づけてきたかもしれないけど、ネットだiPodだと音楽の消費のあり方が変わってきて、プロシューマーみたいなものが実現する過程で消費者=リスナーがその役割を担ったりするんじゃないか。
インサイターの人の「予備校ロック」だったり、スーパーリスナークラブの人が考えた「産業・産業サブカル」だったりっていうのはすでにそうか。みんなもっと使えばいいのに。
まあ現状、新しいジャンルの名前を考えたりしてるのは主に佐々木敦です(勝手な思い込み)。
 
【逆リンク】
マジで「ポストロック」って意味不明だし
http://d.hatena.ne.jp/cliche/20050213#p1
ゲル・ショッカーに突っ込みを入れようと思ったら、音楽のジャンルの括りの話が気になってしまってという感じでしょうか(笑)。「資本によってバックアップされた“シーン”や“ムーヴメント”の磁場」が弱くなってることについての考察おもしろい。あと、ここのさらにリンク先の佐々木敦氏の文章、

音楽があたかも音楽以外の何かの反映であるかのような視点からは、努めて距離を置くように振る舞ってきたつもりだ。

うーん、僕は逆に音楽そのものと距離を置いて、音楽以外の何かばかり見てるな。
あと、僕の興味は渋谷系って言葉は誰が考えたんだろう? という方向なんですが、ウィキペディア渋谷系の解説はその辺に触れてないし、かなり主観にもとづいてるなあ。一方、はてなのキーワードの「ポスト・ロック」の記述は秀逸です(笑)。
 
逆リンク2
http://d.hatena.ne.jp/ykurihara/20050214
コメント欄でnEuさんも教えてくれてますが富澤一誠とニューミュージック。「ニューミュージック評論家」の富澤一誠は当時、ロック、フォークひっくるめた非歌謡曲的なジャンルをニューミュージックと解釈していた模様。ま、なにはともあれ忌まわしい災害からの一刻も早い復興を祈るばかり(笑)。