『暗黒街最後の日』('62)監督・脚本 井上梅次

 鶴田浩二がお勤め帰りっていう設定のやくざ・ギャング映画っていうのは、ひとつのジャンル。『博徒外人部隊』、『日本暴力団 組長』どれもそうだけど、鶴田浩二がムショを出てきたら弟分だったやつに商売も女もとられていて……っていう。
『暗黒街最後の日』。マル和産業という酒類の卸会社を創業した鶴田浩二が刑務所に入っている間、弟分の星野は“秘密定款”をつくり、あこぎなやり方で業績を伸ばす。そこに出所してきた鶴田浩二。会社は両派に二分し、株主総会を舞台に抗争劇が繰り広げられる。あ、いい忘れてたけど株主はみんなやくざです(笑)。
 この抗争に絡み、関西からは漁夫の利を得ようと丹波哲郎の一家が乗り出してくる。そして、暗黒街の浄化を目論む三國連太郎(若き日の三國は佐藤浩市を優男風にした美形)ら検察も乗り出す。
 息子を誘拐するなど、卑怯な手段に出る星野陣営に腹を立てる鶴田だったが、欲にまみれたギャング稼業に愛想を尽かし、抗争から降りることを決意。手打ちを行なう為に星野が経営するクラブに向かう。だが、その前にマル和産業の秘密定款のありかを知った鶴田は、その場所を幼馴染の三國に漏らす。ちなみに秘密定款の表紙にはちゃんと“マル秘”って書いてある(笑)。
鶴田が向かったクラブには、星野とその子分たちが待ちうけ、手打ちに応じたくない鶴田の子分たちと丹波哲郎も乗り出してきて三つ巴。総勢200人余名。通常の東映やくざモノなら、ここで鶴田が「お前ェらは仁義にもとる最低のクズだ」と大見得切って一対多数で立ち回りをやって敵のボスを短ドスで刺し、自分も死んでいくところだけど、日活無国籍アクション上がりの井上梅次脚本だとそうはならない。
水面下での買収合戦のこじれから、星野が自分の部下にあっさり殺られ、疑心暗鬼になった星野の部下たちが仲間割れ。そのうち警官隊に包囲され、やけになって丹波哲郎の軍団とも拳銃の撃ち合いになる。それを鶴田がいさめると思いきや……、「こうなりゃ撃ちまくれ! みんな死んじまえ!」とやけくそ。ホントに10分間みんなで撃ちまくって、200人が全滅!
いやぁすごい映画でしたよ。説明ゼリフばっかりだとか、役者が高倉健丹波哲郎を筆頭に下手すぎとかいろいろあった。だけど、そんなもんかき消えるくらい、映画を見た環境の方がすごかった。浅草名画座。客はずっと梅宮辰夫にぶつぶつ突っ込みいれてるわ、床に痰は吐くわ、平気で煙草吸ってるわ、無茶苦茶場末な感じ! しかも映画館もスクリーンに“終”が出る前に照明つけるし、会話どころか、一部エピソードがつながらないくらいフィルムはずたずたに切れてる(上映時間1時間半だったけど、ホントは2時間あったんじゃない?)。嵐を呼ぶ男 [DVD]
 まあとにかく井上梅次ワールドっていうのはちょっとすごいかもと改めて感心。これまでは日活のアクション(『嵐を呼ぶ男』の原作、監督)出身の大御所くらいの意識しかなかったけど、考えてみれば江戸川乱歩の『美女シリーズ』もこの人が監督なわけだしね。