タイトル未定【第1章】

 六本木ヒルズ。ここは、高級ブランドのショールーム、飲食店街、居住棟、庭園などで構成された箱庭都市だ。映画館や書店はもちろん、テレビ局、FMラジオ局も存在する。箱庭とはいえ都市である以上、ここで生まれ、死んでいくものも出てくるだろう。早くも死んでいったものもいる。約一年前、幼い命がひとつ失われた。しかし、これは都市というものの性格上避けられない宿命だ。
 この箱庭の中央に建つ巨大な建造物。森タワー。ここには、成功を修めたIT関連企業のオフィスが並んでいる。そして、中に入るには飛行場並のセキュリティーをクリアしなければならない。これらのことを確認できただけで、牧男の今日の目的の一部は達っせられたといっていい。牧男は六本木ヒルズを見るのははじめてだった。計画を立てる前に、実際に下見をしておく必要がある、牧男はそう感じて足を運んだ。
 牧男が六本木に足を運んだのはこの日が初めてというわけではない。かつては、WAVEというレコード屋によく通っていた。その店は遥か昔に撤退していた。また牧男自身、ここ数年CDを買うことも無くなっていた。
 この下見を行なった2005年1月21日の午前。牧男は違法滞在の外国人から一丁の拳銃を手に入れた。ダッフルコートのポケットに隠した拳銃を握り締め、牧男は六本木通り六本木駅方面に向かって歩いた。麻布警察署の前を通り過ぎたところで牧男は女に声を掛けられた。「少しだけ見ていきませんか?」
 警察署の隣にはオープンしたての画廊があり、女はその絵を見ないかと誘っているようだ。警察署の付近から一刻も早く立ち去りたかった牧男は女の声を無視して歩みを速めた。この画廊があった場所が以前何だったのか、牧男は思い出せなかった。
 六本木交差点のビジョンは、前日に行なわれたジョージ・W・ブッシュの第2期大統領就任演説のニュース映像を伝えていた。地下鉄の駅の入り口をくぐった牧男は延々と地下深くへと降りいった。そろそろブラジルにでもぶち当たるのではないかと思い始めたところで地下鉄のホームに着いた。牧男は電車を乗り継いで家へと帰った。(続きはhttp://d.hatena.ne.jp/Dirk_Diggler/19810122