小室哲哉の名言「今年はレイヴが来る」を振り返る

小室哲哉と言えば「今年はレイヴが来る」という名言が印象的だ。この名言はオールナイトニッポン電気GROOVEが取り上げて、ネタにしたところから広まったはず。これが電気の嘲笑の標的になったのは、相当に時期外れというか、今さら感があったからだった。小室哲哉が逮捕されて、まあ、華原朋美やT.UTUやら木根にコメントを取りに行くのはよくわかるが、音楽ジャーナリズムなら電気GROOVEの二人に聞きにいくべきだ。

「今年はレイヴが来る」と言った小室が結成したのが、trftetsuya komuro`s rave factory)だった。そのネーミング、プロデューサーを軸として歌わないメンバーを含むユニット構成など、小室がやりたかったのは、C+C Music Factoryだったはず。C+Cは、90年に「エヴリバディ・ダンス・ナウ」で大ヒットしたダンスミュージックユニット。当時のスノッブな音楽ファンには馬鹿にされていたC+Cだが、彼らはガラージハウスの流れを汲んだ音楽の中でもっとも売れたグループであり、今にしてみれば結構重要な存在だったんじゃないかと思う(けど、これってレイブの文脈で語られたっけ? その辺微妙)。

で、trfだけど、その音楽はガラージ系のC+Cの流れを汲んでいたのか? というとそうではなかった。当時流行していたジュリアナ的なハードコアテクノユーロビートだった。この辺がtrfの奇妙なところだったように思う。実際には、メンバーはこういう音楽についてどう思っていたのだろうか? 実は、trfのメンバーと小室の音楽性はかなり違っていたのだ。

昔のフジテレビ『TK MUSIC CLAMP』のサイトに、trfのメンバーと小室の未編集の対談の起こしののデータ(多分消し忘れ)が残っている。ここでは小室とtrfのSAMとKOOがガラージサルソウル系の話をしている。これを読むと、明らかに小室だけがガラージをまったく理解してないのがよくわかって楽しい。

小室:もともとはだから、どういうのが? 一番その音楽の好きな趣味も含めて、ダンサーとしての趣味も含めて。
SAM:あの、本当に個人的な趣味だったら、ハウス。しかもクラシック。
小室:ハウス・クラシック。
SAM:クラシック系のあの、ガラージ系。
小室:僕はちゃんとわかってますけど。でも、難しいよね。やっぱり一般的に、ハウスでクラシックでガラージでって言われてもね。
SAM:そうですね。
小室:すっごいダンスの音楽って、細かいんだよね。別れてるのね。
SAM:でも、同じハウスの中でも、またジャンルが別れてるし。
小室:例えばどういう曲なんですかね?一曲挙げたら、もうこれだったらこれ踊れなかったら、ダンサーではないってぐらいの。
SAM:ああ、あの、曲名とかでいいんですか?
小室:まあ、バンドでもグループでも曲名でもいいし。
SAM:サルスオル・オーケストラ*1とか。
小室:マイナーですね。
SAM:マイナーもいいとこですね。それでいったら、「ラブ・センセーション」とか、あの、「Ain't no mountain high enough」ってあの、ダイアナ・ロス
KOO:テビット・マラレス*2系とかだよね、最近でいったら。
SAM:最近はやってますね。
小室:マニアックですよね。今のチラッと聞こえたダイアナ・ロスとかのなに? ああいう曲、シュープリームスとかですか?
SAM:シュープリームスとか、あの、スタイリスティックスとか。アースなんかもう大好きですね。
小室:アース・ウィンド・アンド・ファイヤー。
SAM:あのへんの曲を、ハウスっぽく。
小室:ミックスしたりとかが一番。もう最高に踊り易いと。
SAM:ええ。
小室:ちょっとね、あの最近、もうだんだんテクノなんて呼べない音には、なってきましたけどね。
http://www.fujitv.co.jp/TKMC/BACK/TALK/trf_3.html

「僕はちゃんとわかってますけど」って言いながら、小室は多分ほとんど全部わかってない。
サルソウルを「マイナーですね」と言ってしまうと、そもそもガラージって何よ? って話になる。ガラージサルソウルだろう。まあ、それはいい。
スタンダードの曲を挙げて説明しようと試みるSAM。挙げた曲は、クイーン・オブ・ガラージ、ロレッタ・ハロウェイの『ラブ・センセーション』とサルソウル系の代表選手、インナーライフの「Ain't no mountain high enough」。そんなSAMだが、途中で小室の知識程度を思い出したのか、「Ain't no mountain〜」はダイアナ・ロスのバージョンの方が有名であることに気づき、親切心からその名も一緒に挙げている。
しかし、ダイアナ・ロスのバージョンすら知らなかった小室は「シュプリームス?」と反応。違います。
もっとコンテンポラリーなミュージシャンならわかるだろうと、気を利かしてデヴィッド・モラレスの名を持ち出すKOOに対して、小室は「マニアックですよね」と返答。
今となっては影が薄くなったが、当時のモラレスは、マドンナのプロデューサーに抜擢され、マイケル・ジャクソンビョークらのミックスをばんばんやってた売れっ子プロデューサー・リミキサー。当時の音楽業界の人間なら当然知っている名前。おそらく橋幸夫だってその名前を知っていただろう。全然マニアックじゃないよ。

さすがに、これではトークにならないとあきらめた二人はアースとかスタイリスティックスとか、小室でも知っているであろう単語を並べて「あの辺をハウスっぽく」とか、もうやる気ゼロのトークに移行(笑)。
でも、そうは問屋が卸さない。極めつけのひとことを小室が吐く。
「もうだんだんテクノなんて呼べない音には、なってきましたけどね」
最後の一言で、小室がハウスとテクノの違いすら理解していないことが判明。ガラージ云々以前の段階でしたな。
 
まあ、これだけダンスミュージックの知識のないプロデューサーも普通いないだろう。基本的に小室哲哉を、海外の最新のダンスミュージックを取り入れて音楽を作り続けた作曲家とかいう解釈は間違っているよね。少なくとも、80年代末にロンドンに渡り、最新の音楽(レイブ)を持ち帰り、trfを生み出したというアエラ現代の肖像のような解釈は違う気がする。80年代末のロンドンの音楽をまったく吸収しなかったからtrfができたんだろう。
 
さて、これは「コムロ、音楽知らないな」と彼の無知を笑うために持ち出したエピソードではない。違うよ! 全然違うよ!
こういった海外の新旧ダンスミュージック(というかブラックミュージック全般か)の知識とは無縁のところで鎖国的な知識環境で音楽を作り続け、しかも世間に届きまくったところが、小室の才能だったんだよ。洋楽からのあからさまなパクリとかがあまりないのもJポップのクリエイターとしての小室の特長のひとつなんじゃないだろうか。

それから、コムロにはもうひとつ、「今年はジャングルが来るね」という名言がある。これについてもどなたかよろしく。

 
【追加】小室哲哉について思うこと - サクッとペラいち
確かにレイブって音楽ジャンルがあるんだと思いますよねえ。それを反面教師にしたいい話。


FREE SOUL the Classic of SALSOUL

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Ain't No Mountain High Enough [12 inch Analog]

Ain't No Mountain High Enough [12 inch Analog]

*1:一般にはサルソウルと訳す

*2:一般にはモラレスと訳す