ナベプロと著作権とYouTube
1971年の著作権法改正
今はコンサートで他人の歌を演奏したり、カラオケ業者が営業するために著作権料を支払うというのは当たり前の感覚だと思うけど、これが義務付けられたのは1971年の著作権法改正以降のことに過ぎなかったりする。
このような著作権料の支払いを義務付けられた背景には、1960年代の音楽業界の産業構造の変化があった。当時の構造の変化は大きく2つある。
- 映画からテレビへ
- レコード会社から音楽プロダクションへ
前者はそのままの意だけど、後者は少しややこしい。後で述べる。
この両方に大きく関わっているのがナベプロ。というかこの二つの出来事をナベプロ側から眺めると、ほぼ同じ出来事にしか見えない。
映画からテレビへ
当初はレコードを発売するレコード会社の主なタイアップ先は映画会社だった。石原裕次郎や美空ひばりといった映画スターが歌う主題歌が大きなヒットとなった。しかし東京五輪前後からテレビが台頭してくる。
歌手もテレビから生まれるようになった。その代表的な歌手がザ・ピーナッツでありクレイジーキャッツ*1坂本九であった。
上で挙げた歌手は皆ナベプロ系のタレントだ。ナベプロは昔はお笑い芸人の事務所じゃなかったのだ。ウエスタンカーニバルを成功させたナベプロはフジテレビの開局と同時期に音楽バラエティ『ザ・ヒットパレード』に制作を含め全面的にタッチする。これがテレビと音楽が本格的に結びつくきっかけとなる。
レコード会社が利益を独占していた時代の終わり
ナベプロは自ら制作した番組に自分の所属の歌手を出演させてスターを生み出すことに成功したが、肝心のレコードの売り上げを持っていくのはレコード会社だった。プロダクション側の収益は歌手の印税が約2パーセント(AB面込みで)入ってくるのみ。これに不満を覚えたナベプロの渡辺晋は策を講じる。それは原盤制作を行って自ら原盤権を得るというやり方。作詞家と作曲家を自前で雇って曲を作らせ、それを自社の歌手に歌わせたのだ。そしてその原盤をレコード会社に売り込み、原盤使用料契約を結ぶやり方に切り替えた。
この、レコード会社以外が原盤権を持つ方式で発売されたレコードは『ポピュラー音楽は誰がつくるのか』によると植木等の『スーダラ節』(1961年)、『ナベプロ帝国の興亡』では(シンコーミュージックが先を越し)マイク真木の『バラが咲いた』(1966年)なのだという。
クレイジーキャッツと佐藤栄作はゴルフ仲間だった
ナベプロがこのシステムを実現させるには、当時専属の作詞家と作曲家を抱える形で利益を独占していたレコード会社を説得する必要があった。その交渉のために渡辺晋は日本音楽事業者協会(音事協)を立ち上げる。音楽プロダクション全体が団結してレコード業界に立ち向かうという作戦だ。その初代会長は中曽根康弘。これは渡辺晋のゴルフ仲間であった佐藤栄作の口利きによるものといわれる。
『ナベプロ帝国の興亡』ではこういう記述になっている。
晋が大手レコード会社との“原盤制作交渉”を無事に進められたのも、音楽プロダクション側が有利になる“著作権法改正”が国会で通ったのも、すべて“音事協”という仕掛けがあったのだ。
音自協は、自分たち原盤権保持者が最大限に利益を挙げるために国会議員に働きかけ、著作権者に著作権料を支払う義務が生じるよう著作権法を改正させたというわけだ。ここでも佐藤栄作へのナベプロの影響力が生きてくる。そもそもこの狙いで渡辺晋は佐藤栄作に近づいたようだ。
新しいビジネスを始めるには、それに則した法整備が必要になる。そのために業界団体をつくって、政治家に働きかける根拠を得る。上の例では原盤権保持者に有利な法整備がなされたわけだけど、カラオケ業者などは市場から締め出されたわけではなく、著作権料を支払うことでビジネスを行なうことができるようになった。
結論
ここから延々とYouTubeと著作権の話をされても読んでるほうも疲れるだろうからあれなので端折るけど、ここでいいたかったのは、今の著作権法の中身というのはいってみりゃ「ナベプロが決めたもの」だということ。今は上と同じような産業構造の変化を迎えた時代なので、そうではない新しい著作権法が必要なのは当たり前だ。YouTubeをぶっつぶしても第2のYouTubeが現われるだけだろうし、どっちも生き残る枠組みを考える必要があるだけでしょ、と。
最後に
この辺は暇だから調べたというわけではなく、いまかかっている大仕事とドンピシャかぶっていたから手元に資料があった。原盤権をレコード会社以外が所有して出た楽曲が「スーダラ節」なのか「バラが咲いた」なのかその辺の良い資料を知っている方がいたら教えてください。
さらに
2006年07月14日 himagine_no9 著作権 内容に精査が必要な気がする。
と言われたので追加。
上の話は基本的に『ナベプロ帝国の興亡』を元に書いてます。詳細はこれと読み合わせてみてください。
- 作者: 生明俊雄
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2004/08/01
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 14回
- この商品を含むブログ (13件) を見る
- 作者: 軍司貞則
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1995/05
- メディア: 文庫
- クリック: 7回
- この商品を含むブログ (5件) を見る
- 作者: 津田大介
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2004/09/22
- メディア: 単行本
- 購入: 6人 クリック: 164回
- この商品を含むブログ (130件) を見る
*1:彼らの映画はTVよりもあとから始まっている