テレビから出てくるもの。映画『ポルターガイスト』
『ポルターガイスト』を借りてきた。
トビー・フーパー監督、製作、脚本、製作総指揮スティーブン・スピルバーグ。これと同時期にスピルバーグは『ET』を撮影中だったが、ロケ地が同じだったこともあり、相当演出に口を挟んだらしい。
70年代末に公開された『サタデーナイト・フィーバー』や『ロッキー』(この映画の美術監督ジェームズ・H・スペンサーは『ポルターガイスト』も担当)が、都市部に流入した貧困な移民層が成り上がっていく物語だとすれば、それと対を成すのがスピルバーグが好んで描いた中流で郊外生活を営む家族の物語。一見平和な家庭なんだけど、なにかが崩壊しつつある世界。
『ポルターガイスト』の冒頭は子供たちがラジコンで遊んでいるシーン。つづいての、フットボールの試合をテレビで楽しむ大人たちのシークエンスでは、隣の家のテレビのリモコンのせいでチャンネルが変わってしまう。この冒頭は、無線で何かを操作することが当たり前の世界が描かれている。人間の意思が空気を媒介してモノに伝わるということはすでに現実なのだ。
ちなみにこの映画に出てくるお化けは、テレビを媒介して少女をさらう先住民の霊。媒介するという意味では冒頭のラジコンとどちらがお化けなのかを考えてみても大差はないのかもしれない。
『ポルターガイスト』ではリビングルームだけでなく、寝室、キッチンにまでテレビが置かれている新興住宅地の家庭が舞台となる。この家の少女はそこから出てきた「テレビ・ピープル」と会話をすることができる。
メディア論の類の本の冒頭には、Media=Midium=霊媒であるって書いてあるんだけど、たまたま読んでる本にお化けとメディアについて触れてあった。引用すると長くなるので一文だけ。
一八三七年にモールス信号が発明されるとたちまち耳に聞こえるようになってきたのは、死者の国からのメッセージをたずさえて、降霊術の会のテーブルをツー・トン・ツー・トンと叩く幽霊たちであった。
『グラモフォン・フィルム・タイプライター』
ちなみにこの映画ではテレビを通して出てくるお化けの正体が“先住民の霊”っていうオチになってるんだけど、元々の企画段階でのお化けの正体は宇宙人だったらしい。結局作り手にとってはテレビの向こうにいるのは何でもよかったんだろう。スピルバーグ自らが編集でカットしたという最終シーンというのがそれを物語ってる。
最後のシーンもカットした。父親のスティーブ・フリーリングは家族が避難したモーテルの部屋からテレビを放りだすが、本当はその後でテレビがひとりでに通路から下に落ちる場面があった。
『地球に落ちてきた男―スティーブン・スピルバーグ伝』P.273
このシーンの意味は、「テレビの中にはまだ幽霊が潜んでいるという暗示」したもの。結局この映画が「テレビ怖ぇ〜」という意図で作られている。多分お化けの本当の正体は、郊外生活がもたらす退屈(含む、家族の絆、モラルの消失)みたいな感じと捕らえた方がまとまりがいい。
あと、ネットに面白い『ポルターガイスト』について書かれた文章がないかと探していてみつけたのがこれ。『サバービアの憂鬱』という絶版本のテキストがアップされていた。
この映画はテレビと退屈に支配された世界のなかで現実が見失われ、ささやかな変化を求める両親の潜在的な願望と、雷や不気味なかたちをした木に対する子供たちの恐怖心が結びつき、モンスターをつくりあげていく構図を持っているともいえる。
+++ 大場正明『サバービアの憂鬱』 第10章 郊外住宅地の夜空に飛来するUFO [PAGE-2]+++
ついでに、アメリカの郊外型ライフスタイルを支えたのはテレビであるというのはこちらの章。これもおもしろかった。
http://c-cross.cside2.com/html/j00sa007.htm
最後に『ポルターガイスト』が公開された年に流行った松本伊代の『TVの国からキラキラ』も引用しとく。
黒板までもキラキラ 恋の光でキラキラ
なにもかもがキラキラ もう もどれない
この曲の作詞はスピルバーグと2歳違いの糸井重里。二人の共通点は結構多いのだけど、重要な共通項をひとつあげれば“テレビっ子”。糸井重里はスピルバーグ的なアメリカ郊外が舞台になっているゲーム『MOTHER』を作っており、スピルバーグと同世代であることと、同年代ならではの共通点を感じているという話を何かのインタビューで答えていた。その辺の話はユリイカのムーンライダーズ特集号で『ヴィデオ、万年筆、オープンソース』というタイトルの原稿を書いた。
ユリイカ2005年6月号 特集=ムーンライダーズ 薔薇がなくちゃ生きてゆけないんだってば!
あと、村上春樹に『TVピープル (文春文庫)』っていう短編があるんだけど、これは読んでないので絡められないけど、彼も糸井重里のひとつ下の1949年生まれだ。
関連=cliche氏の退屈をテーマにしたブログ。
『日々常套句』
cliche氏がこのブログで紹介していた『Uncommon Places: The Complete Works』という70年代のアメリカの郊外の空気が収まった写真集を買った。上に貼ったやつもその一枚。
さあ、次は『ツインピークス』でも見るか?
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Uncommon Places: The Complete Works
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